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買い上げたその命


すうすうと。温かい風が。生ぬるい吐息が、首筋に。

すうすうと。規則正しいリズムを刻む。

温もりを感じる程の距離に人がいる。生まれてはじめての経験に、錯乱しそうになる精神を抑え、ゆっくりと起き上がった。

目覚めたばかりの脳は、うまく働かない。部屋の証明がぎりぎりまで落とされているということも手伝って、アスランは周囲の状況を把握するのに瞬き10回分くらいの時間を必要とした。

カーペットの敷き詰められた8畳程の空間に家具はひとつもなく、アスランと、そして至近距離に横たわっている誰かだけが存在する。隣では、すうすうと、気持ちよさそうな寝息がしていた。

アスランが目覚めるきっかけともなったあの風は、どうやら彼が発生源らしい。よく見ると、自分とそう年の変わらない少年だった。

少々小柄であどけない顔立ちをしているから、いくつか年下かもしれない。それでもそんなには離れていないように見えるのに、その彼がアスランのシャツの袖をぎゅっと掴んで離さない。まるで、子どもが宝物を取られまいとして必死に握り締めているような、どこか幼い仕草だった。

どうやら自分は彼の懐に抱きこまれるような形で眠りについていたらしい。どんな経緯でこのような状況に陥ったのか、それが思い出せないのが不気味だが、どうしてか、隣に居る彼の温もりを不快だとは思わなかった。

体をゆすってみてもちっとも覚醒の気配を見せない彼を、無理矢理に起こすのも気が引けて、アスランはひとりこの状況に困惑するばかり。強く握られたシャツは、きっと皺になっているに違いない。

 

「お目覚めのようですね」

 

思いがけないその声に、アスランは忘れていた警戒心を呼び起こした。声のする方を振り返って、そこにいる人物を油断なく見据える。それはこの部屋の唯一の出入り口である扉を背に、まるで一本の棒のように直立していた。

なんとか体制を整えようにも、床に腰を下ろしていたのでは、咄嗟に動くこともままならない。アスランは内心で舌打ちした。

 

「おや、そんなに警戒しないで頂きたい。貴方に危害を加えるつもりは爪の先程もありませんので」

 

罅の入った初老の声はそう言って、白い手袋をはめた両手を広げてみせる。その仕草に、とりあえず差し迫った危機はないだろうと、アスランは肩の力を抜いた。そうすると、今までは二の次と押し込めていた疑問が次々と浮かび上がる。

 

「まずは、いきなりこのような見覚えのないところに連れてきてしまった事をお詫びいたします」

「ここはどこなんだ。俺はなぜこんな所にいる?彼はいったいなんなんだ」

 

緊急な危険はないにしても、油断できない状況なのは変わらない。アスランはとにかく状況を把握しようと、立て続けに疑問を並べたてた。その焦りを宥めるように、あるいは逆撫でするように、男はことさらゆっくりと質問に答えていく。

 

「ここは彼らの家・・・檻なのです。本来ならば余人をお招きするような事態は決してあってはならないこと。その存在を知ってしまった貴方も、ただでお返しするわけにはまいりません。少々年を召してはいますが、幸い素材としては申し分ない御容姿。そのままここで飼い馴らしてしまうのも悪くはない・・・」

「ちょっと待ってくれ!何を言っているんだ、檻だの、飼い馴らすだの・・・話が読めない。それに、彼は、彼は人間じゃないか。それを、まるでペットか何かみたいに」

 

これだけ傍で人の声が行き交っていても、目覚めない少年に視線を落として、アスランは口調を荒げた。そんなアスランの様子に男は目を細める。

 

「世の中には同じ人間を飼い馴らすことを趣味とする人間がいるのです。ここはそういった者たちのみが足を踏み入れる事を許された場所。彼らはここでは犬と呼ばれている」

「そんな・・・彼ら、ということはここにいる彼以外にもおなじ境遇の人がいるということか。いったいどうして、こんな」

「貴方には関係のないことです。・・・ただ、彼は孤児のようですね。どうしてここに来ることになったのか、それまでは存じませんが。ここに居る商品たちには少なくない値が付きます。それを目当てに子を売る親もいるのかもしれませんね」

「・・・・・・」

 

関係ない、と言いながらも段々と口が軽くなっていく男に不信感を持ちながら、それでもアスランはその話に聞き入っていた。別世界のことだと思っていた嘘みたいな現実が、ここにあった。

まだまだ成熟途中の、無防備に眠っている彼が、犬・・・?

 

「そこに寝ている彼、シンという名ですがね、彼はずいぶんと貴方が気に入ったらしい。散歩に行って何処からともなく連れてきたと思えば片時も離さない。まるで人を寄せ付けない彼が、初めてのことです」

「なぜそんなことを俺に言う」

 

低音で呟くアスランに、男は初めて表情を変えた。まるでようやく本題に入れるとでも言うように、顔にうっすらと張り付いた笑みだ。

 

「ここの存在を知ってしまった貴方をただで帰すわけにはいかない。しかし、貴方をこれ以上お引止めすることもできなくなりました」

 

アスランは無言で先を促がした。もうこの男の話を聞くのはうんざりだった。

 

「御父上の迎えがおいでです」

「父が・・・!?」

「御子息の行方を心配なされたのでしょう。パトリック・ザラの力を使えばここを探し当てるのも難しくはない。逆らえばこの屋敷など塵のように掃いて捨てられる。それでなくとも、我が屋敷の犬が貴方に手を出したと知られただけで、ここはもはや風全のともし火なのです」

「だから、俺にどうしろと言うんだ」

 

男は張り付いた笑みのままで、信じられないようなことをアスランに告げてきた。

耳に入ってきた言葉を信じたくなかった。

 

「貴方に手を出した者が、貴方の所有物だとしたら?それはこちらの落ち度ではありません。全て貴方ひとりにのみに関わること。我が主に危害を及ぼす可能性がある犬を飼い続けるわけにはいかないのです。もし貴方が拒否するというのなら・・・」

 

そこで男はスーツの懐に手を忍ばせた。全くそういった態度を取らなかった男の豹変に、アスランの反応が遅れる。男の手を払うより早く、アスランの額に黒光りする銃口が照準を定めた。

そして、その銃口はアスランの身体なぞりながら、下へ下へじりじりとスライドしていく。

犬と呼ばれた少年は、銃口を向けられてもまだ、目を覚まさなかった。

 

「この死体を持って、パトリック氏にお許しを願うしかありません」

「ッ卑怯な!」

「彼を救いたいのなら、その命、貴方にお買い上げ頂きましょう」

 

 

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